●藻柄子宗典の世界
昔から藻柄子宗典の刀装具が好きで何とか揃えて一振り組んで見たいと思っていたが、その手がかりととして先ずは「高士隠棲図」の鐔を入手してみた。銘はないが作ぶりから本歌と見て取れる。祖父江先生にみせたら本歌と認定していただいた。しかし「藻柄子宗典」も「名人鐔師のランクからいえばB級ですからから」と謙遜してみせたが、「いや、宗典はC級だよ」と言われて「確かにその通り」と思う。しかしやはりションボリ。
とはいえはC級鐔師なりの良さがあり、AB級名人の技術は確かに素晴らしいが、技法のみに溺れるような部分もあり、鐔の全体的バランスからいえば何とも冗漫、冗長な空間を取りすぎかと思えるバランスの悪いものもあるように感じられる。また武士の差料としては少しちぐはぐなものもある。宗典の作は金工師鐔、透かし鐔の両方の良さを巧みに取り入れ、見事なバランスのよい作品のスタイルを案出した所によさがあり、当時大変な人気を博した事も頷ける。また単なる技法本意に流れず(といっても大変な技術であると思うが)、やや粗削りな部分もの越しながら鉄味の良さも味合せてくれ、また立体的構図を造った中々のセンスの持ち主であり、そしてその作品を一人の名人のものとせず、どうもある程度マニファクチャー的に工房製作していたらしく、よって今日にもある程度の数を認める事が出来、我もよって何とか入手できる訳である。
その後、鐔に丁度合う宗典風の目貫「唐人松樹下太鼓図」を入手する事が出来た。銘はないが確かに宗典風であり、作柄の良い精密な作である。
銘ある作としては「兜諸道具」縁頭を入手できまた鐔も銘入りの「農耕図」が入手できた。そしてこれは銘無しで作者は不詳であるが、「武者と姫君」の目貫なども入手できた。この目貫も宗典風である。
合わせると後「武者絵図」鐔が一組拵えが組める。比較的多くある構図なのでその内入手する事が出来るであろう。
ともあれC級と言えその技巧は正に神業であり、当時どのようなしてこの様なものを造っていたのかが分からない。鉄を鋤き、削る技術も超絶的であり、今日の如くミニグランンダーがあっても中々に出来る事ではない。それより不思議なのがどのようにしてて鉄に金銀を貼り付けていたかであり、単なる象嵌などでは不可能な技術が用いられている。水銀を用いた特殊な技術であったらしいが試したことはなく、本当に出来るかどうかは分からない。譬え出来たとしもその精密さは正に驚異であり、ビックリさせられる。そしてABクラスの名人の業は本当に超絶的である……。

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